ある知り合いの女を家へ送っている時の出来事だ。
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女には彼氏がいて、僕には失いつつある恋人がいた。いや、もう失ったかもしれない。まぁそれはどうでもいい。そのことは、今日の話とは関係ない。
その女の家までは、首都高を飛ばして40分くらいだ。家では、女の彼氏が待ってる、と言う。一緒に住んでるわけではないらしいが、今夜は休日の前で彼氏が家に来ている、という。なるほど。
そして、その女を家へ送っている最中、僕は心底ウンザリすることになる。36年も生きてるとウンザリすることは1ダースくらいあったけれど、この時ほどひどいのはまぁあまりない。
都内から浦和へ車を飛ばしている最中、5回女の携帯が鳴った。鳴った、というか、鳴り続けた。女が受話器を取るまで、何分でも鳴り続けた。5回のうち1度は無視をしていたけれど、首都高の出口を3つ過ぎてもまだ呼び出しが続いていた。そして、その5回の電話のうちの2度目の時、僕に電話を替われ、と言ってきた。一体何時に家に着くのか?、今どこを走っているのか?、なぜ今日彼女と一緒にいるのか?、なぜそんなに時間がかかるのか?、などなど、会ったこともない男から詰問された。一体この男は何なのだ?
僕にはその行動が、まったく理解できない。まぁでも想像するならば、多分、彼はそうすることしかできないのだ。
彼にとっての好意とは、そういうことでしか表せないのだろう。自分の彼女を守る近衛兵の気分なのだろう。自分自身のエゴが、彼女を守る鉄壁の防御となっていると信じているのだろう。わずか40分ですら彼女の帰りを信じて待てない男。電話を鳴らし続けることでしか、自分の存在意義を見いだせない男。
他人のことだし、僕には関係のないことだし、だいいち、15も年下のよそのカップルの話だから、本当にどうでも良いのだけれど、それでもウンザリした。僕なんかに人のことをとやかく言う資格なんかないかもしれない。でもそれでも敢えて言うけれど、これはひどい。
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麗しき青年将校が、家の前で立って姫の到着を待っている、なのだそうだ。僕は、女の家の500メートル手前で車を停め、ゴミでも捨てるような気分でドアを開けた。
女は風俗嬢だ。彼氏はそのことを知らない、という。残念だけれど、人生とはそういうものだ。